オホーツク文化期 死後の世界

古代の木の文化ー5C

 死後の世界もまた
他の時代と比較して特徴がある。

屈葬で埋葬し、頭の上に土器の口を下にして被せ「被甕」(かぶりかめ)という習慣が一般的であるということが最大の特徴であろう。死者の封じ込めという観念が働いていたのかもしれない。

 アイヌ社会ではポクナ・モシリ(下の国)という観念があるという。裏側の国土、地獄、冥土を意味し、アイヌが死んだら行く場所と考えられている。

 オホーツク人に限らず、如何なる時代の人たちも死者に対しては特別の扱いをしている。そのような中で、頭位を北西側に向けるという基本習慣は、彼らの原郷土であるシベリア大陸に郷愁があったのかもしれない。死後の世界も又多くのことを私たちに語りかけてくれるのである。

 彼らが使用していた各種の道具などについて考えておく。

土器、石器、骨角器、大陸系金属製品とオホーツク文化に特徴的な動物信仰に関わる動物意匠遺物に関して、近年発見例が急増している木製品について見てみる。

 木製品は通常の状態では腐食してしまい、遺物としてはあまり残っていないのである。泥炭地のような湿地の中とか焼けて炭化した場合に遺存できる特殊なものである。

 羅臼町松法川(まつのりがわ)北岸遺跡、常呂町常呂川河口遺跡、同トコロチャシ跡遺跡オホーツク地点などで焼失した家屋が検出され、数多くの木製品が発見され、容器に対する考え方を変えなければならないことになったのである。

 では、常呂町内出土のオホーツク文化の木製品の幾つかを紹介してみよう。

写真4は舟形容器で木槽としてよいものである。一部しか残っていなかったが、長さ1mを越える大型のものである。

 クマの飼料用とも考えられるもので、「クマ祀り」儀礼の存在を示唆している。

5は木製盆の一部である。長さ30cm以上を測る。6は角盆と思われる容器で、これも長さ30cmほどにもなるものである。一部焼けてゆがんでいる。以上が容器としての木製品であるが、これらの他にも椀形木製品の破片が見られる。

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 7の杓子は4の舟形容器の上に直接のって出土したもので、セットになるものと考えられる。長さ50cmを測る大型のもので、飼料をこねる道具であった可能性が高い。8は匙である。長さ20cmでこれも調理用であろう。もっと小型の匙は9の飼料である。このように杓子や匙のような道具も骨角器以外の木で作成されることもあったのである。

 

 10は柄の部分である。長い方で13cmが残っていた。11は櫛であるが、堅櫛と呼ばれるタイプでオホーツク文化では初めての出土例である。高さは9cmを測る。12は用途不明であるが、衣文掛け状の木製品である。横幅は22.5cmほどである。上部の二枚の板には彫刻が施され、本体に差し込むようになっており、恐らく木釘で留められていたのであろう。極めて芸術性の高いものである。

 13は小刀の柄で左端に刀身をはめ込んだ溝が残っている。長さ14cm。

14は木製の鍬である。小型で高さ3cm。これも極めて類例が少ない遺物である。

 他に、オホーツク文化のものとして、ほぞ穴付板状品、算盤玉状木製品、二股状木製品、装飾品の一部、縫い針状木製品、コイル状樹皮製品、樹皮容器、皿、杯、注口容器その他、実に多彩である。

 この他に、刀子などの金属製品があるが、青銅製のものは大陸から伝えられたものである。刀子の中には曲手刀子と呼ばれる柄の部分が湾曲して下方に下がるものがあるが、そのタイプはオホーツク文化に特徴的なもので、やはり大陸からの交易品である。

 鉄製のものが多い。写真15は鉄製の刀子であるが、本州産のものであろうか。トコロチャシオホーツク地点八号竪穴出土。長さ12cm。非常に特殊な例として磨製石鍬が発見されている。(16)。長さ6.1cm。北海道ではこの種の遺物は未発見であったが、オホーツク文化に伴うものとして注目すべきものである。大陸からのものであろう。

  同じく大陸と関係すると思われるものとして牙製婦人像と呼ばれるものがオホーツク文化を特徴づけている。

 参考資料として示したのは、根室市オンネモト貝塚から出土したものである。高さ6.5cm。頭部と背面の下部は欠損しているが、両手を前で合わせ、スカートのようなものをはいている姿は他の婦人像とも共通している。

 17の資料はモヨロ貝塚10号竪穴出土のものであるが、高さ5.7cm。

頭部と両腕部の一部を欠いているが、やはりスカート状のものをはいている姿である。1718と共伴したもので、高さ4.4cm。

 一応、牙製婦人像の象徴像とされているが、疑問の向きもある。これらの牙製婦人像はオホーツク文化に特有のものであり、極めて北方的要素が強いものである。

 オホーツク文化の特殊性を示す一級資料といえるだろう。

 以上のように、日本列島の北端に広がったオホーツク文化は、後のアイヌ文化に可也の影響を与え、「北の文化」地帯の独自性を特徴づける役割を大きく担ってきたのである。

北の異界・古代オホーツクと氷民文化