長都沼など沼沢地を望む標高17m程の台地に
一風変わった遺構がある。
キウス環状土籬は、まさに日本最古、縄文時代最大規模の
構築物であり、見る者にして深い感動を覚えさせる。
キウス周提墓群
長都沼など沼沢地を望む標高17m程の台地に一風変わった遺構がある。
キウス環状土籬は、まさに日本最古、縄文時代最大規模の構築物であり、見る者にして深い感動を覚えさせる。
径20数〜40数m程の竪穴を堀り、その土を盛り上げるもので、9基が確認されている。
大きなものは内径34m、外径が75m、土手の一番高いところが5,4mもある。 外周上が150mほどあり、土手を1箇所だけ低くした「出入り口」が設けられている。中央の平坦な部分に土壙墓をつくり、墓の底にはベンガラをまき遺体とともに石斧、石棒、弓などを副葬する。
プランがひかれ、それに従って村人が動員された。固い土を直径30mの円形に2mの深さまで掘り下げ、その土を外側に3mの高さに盛り上げる。
そんな作業を来る日も来る日も続ける。
国指定の史跡「キウス周提墓」で、今から3,200年前、縄文時代の後期末葉に盛んに造られた集団墓地である。
周提墓の存在が知られたのは今から100年ほど前の明治34年(1901)。大正13年には、後代のアイヌのチャシ(砦跡)として報告されている。
アイヌ文化期のチャシは、見晴らしの良い台地の突端部などに溝が堀り込まれる形で残っている。周提墓とは明らかに違うが当時の知識としてはチャシ以外に見えなかったのだろう。
キウス周提墓群が縄文時代の集団墓地として評価が定まるのは、恵庭市の柏木B遺跡や苫小牧市の美沢T遺跡などから周提墓が相次いで発見されたことによる。
後期の中頃には東北北半の影響を受け、土擴の周囲に石を配する墓(環状列石)が造られるようになる。在地色の強い後期末葉の堂林式土器の時期になると、周りに土で土手をつくる周提墓が盛んに造られるようになる。
美沢T遺跡では、美沢川からやや離れ、眺望が開けた尾根の上に6基の周提墓が造られている。埋葬後埋め戻したところは楕円形に黒くしみになっている。
1,5m程掘ると白くのり状になった骨が黄色のパミス(軽石)の下から出てくる。
縄文時代一般に死者を葬るにあたって身に付けている装身具以外特に備えはないが、周提墓の墓からは土器、石器、装身具、道具類、狩猟具類などが多い。
(「古代に遊ぶ」さっぽろ文庫 札幌市教育委員会 千歳の遺跡 大谷敏三)
日本の古代遺跡・北海道T(野村 祟)
環状土籬の発見
「環状土籬」は、環状列石の石を土に代えたと見るべき共同墓地で、環状列石の使われなくなったあとを受けて、北海道の縄文時代後期末に盛行する。丘陵の先端部や台地の縁辺部などに直径数mから数十mにも及ぶ巨大な竪穴状構造物をつくり、土を周囲に盛り上げる。そのため環状の周提が出来ることから周提墓と呼ばれる。
環状の土手は50cmぐらいから5,4mの高さに及ぶものがある。その中や、ときには土手或いは土手外に5〜20基の墓壙が造られる。
墓壙は竪穴の床面を垂直に長円形に掘り込み、墓壙の両端、或いは片側に小土擴を設けるものがあり、そこに柱状の石が立っている場合もある。擴の底や擴中からは副葬品の石棒、石斧、朱塗りの櫛などと共に、人骨が出土する。
環状土籬は、渡島半島と道北部を除く各地に見られ、その数は40基を越える。その内、36基が石狩低地帯南部に集中している。
現在のところ北海道だけにしか発見されていない。環状列石が東北地方や中部地方を中心に全国的に見られるのに対し、著しく対照的である。
年代的には環状列石から環状土籬に変わり、周溝墓と呼ばれる周囲を溝で区画したなかで土を盛ってマウンドをなす墓に変わる。そして、晩期初頭の積石墓や盛土墓につながっていく。
キウス環状土籬群
千歳市の中心部から北東に国道337号線を北上して9`、馬追丘陵の南端部、千歳市中央の木臼地区。
かつては西方のマオイ沼とオサツ沼を望めたが、干拓により姿を消してしまった。やがて国道の両側に土手がせり出してくる。
キウス地区からは、旧オサツ沼に注ぐチャシ川を挟み、北に1基、南に7基、その西南約500mのところに8基、その2,5`南方に2基の合計18基が確認されている。その内4基は耕作のため削平されたが、14基は今も地表に巨大な遺構を見ることができる。
この中で最大の環状土籬は2号で、外径75m、内径34m、土手の高さ5,4m、土手の円周が150mもある。
北海道大学工学部の宮腰氏の土量計算によれば、その造営にあたり3080±300立法メートルの土量が移動堆積されたとしている。これは、仮に一人の人間が一日1立方メートルの土を積み上げたとして、25人がかりで実に123,2日の日数を要したことになるという。
キウス環状土籬は、まさに日本最古、縄文時代最大規模の構築物であり、見る者にして深い感動を覚えさせる。